言葺庵

寝惚けた獅子に気付けの一服

マーケティングの為にUSPとMSPの違いをまとめた。

眠れる獅子へ

USPよりもMSPの方が大切だと最近は言われている。
確かに現代ではUSPよりもMSPの方が大切だ。
しかし、MSPが大切なのはUSPよりも優れているからではなく、
USPの軸になりえるからなのだ。

この記事ではマーケティングにおいて重要な両者を解説し、作成の為のヒントを提示する。

目録

USPとは何か?

私がUSPと知ったきっかけ

私が初めてUSPという概念を知ったのは、以前に読んだ
「沈黙のWebライティング」という書籍の中だった。
沈黙のWebライティング —Webマーケッター ボーンの激闘— | 松尾 茂起, 上野 高史 | 工学 | Kindleストア | Amazon

一般的なUSPの定義

USPとは「Unique Selling Proposition」の頭文字を取った略語で、
ロッサー・リーブスが提唱し、ジェイ・エイブラハムが広めた概念。
一般的には「独自の販売提案」と訳される。

  • Unique:独自の
  • Selling:販売
  • Proposition:提案

その根底には次のような思想が流れている。

「他社に代替不可能な利便性や機能性を、当社が便益として顧客にもたらせば
他社と競合することなく当社が利益を独占できるだろう。
なぜなら当社独自で他社には代替不可能なのだから!」

USPのメリット

前掲書によるとUSPが決まれば、以下のようなメリットがあるとの事。

  1. 他社商品との比較ポイントが明確になり、顧客がその商品を選びやすくなる。
  2. 色々なWebサイトやブログで紹介されやすくなる。
  3. Webサイトのデザインやコンテンツの方向性がブレなくなる。
    ――松尾茂起・上野高史「沈黙のWebライティングーWebマーケッター ボーンの激闘ー」

よって顧客から選んでもらいやすくなるだけでなく、紹介もされやすくなるのだ。

USPのヒントになる事例

USPではなくキャッチコピー

これらは「USP:独自の販売提案」ではなく、
耳当たりの良いキャッチコピーだ。
「いい気分」になるのはセブンイレブンだけでないし、
「お口の恋人」は別にロッテでなくても構わない。

良い言葉の響きや、洒落の効いた言い回しはキャッチコピー
にはなれるが、USPになれるとは限らない。USPとは
独自の販売提案――自社の商品の強みを
端的に表したコピーやコンセプト
」だからだ。

秀逸なUSPとしてよく取り上げられるのが以下のコピーやコンセプトだ。

USP

「熱々のピザをご自宅まで30分以内にお届けします。間に合わなければ、ピザ一枚分の代金を返金します」

それまでの宅配ピザは冷めたのが届くのが当たり前だったのに、
ドミノ・ピザはこのUSPによって業界の新たな地平を切り拓いた。

「お口でとろけて、手にとけない」

常温ではすぐに溶けてしまい、手をベタベタにしていたチョコレート。
その先達に対して、このUSPを打ち出したM&Mは今なお業界の雄である。

「吸引力の変わらない、ただひとつの掃除機」

経年劣化によって吸引力が落ちていしまうのが当然の掃除機ばかり、
そんな状況に上記のUSPと共に異を唱えたのがダイソンだ。

「結果にコミットする」

スポーツジムに課金しても通わず結果を出せないユーザーが多くいる。
USPを込めたこのメッセージを高らかに掲げる事で、
ライザップは業界で大きく一歩抜きん出た。

「LifeWear(ライフウェア)」

ご存知ユニクロが「究極の普段着」を目指して掲げるこの造語は、
最も強力なUSPコピーの一つだ。

USPの作り方

上記の例を参考にしてUSPを作るなら、
以下の文章の記号を言葉で置き換えていくと良い。

当社の”商品”には他社にはない”△△”という独自性(Unique)がある。
↓
それは他社にはない”□□”という強み(Selling)だ。
↓
よって顧客に”◯◯”というメリット(Proposition)を提供できる。

これを考える為にはマーケティングでよく使われる3C分析が大いに役立つだろう。


3C分析とは以下の3つの観点から自社を分析する方法である。

  • 競合(Competitor)
  • 自社(Company)
  • 市場(Customer)

USPよりMSP

USPの栄枯盛衰

先述した名だたる企業のUSPは、登場した当時こそ
耳目を集めるキャッチーなコピーだったが
今ではほとんど鳴りを潜めてしまっている。

ITの急速な発展により、以前よりもはるかに容易に
他社商品をコピーすることができるようになったからだ。
企業体力が充分にある競合他社がその気になれば
似て非なるものを開発・販売できてしまう。
そういった似非商品が市場に現れたとき、USPの独自性(Unique)は
失われ、ただのSP(販売提案)に成り下がってしまう。

勿論SPが無価値という訳ではない。世の中の大多数の商品には
SPすらないのが基本だから、ないよりは遥かにマシだ。
それでも、UniqueでなくなったSP同士のぶつかり合いの先には
価格競争が待っているだけである。

繰り返すが、利便性や機能性といった商品が顧客にもたらす便益は、
現代では簡単に真似されてしまう。
SP(販売提案)をUniqueにしずらくなっているのに疑いの余地はない。

USPのこのような変遷を踏まえて、提唱されるようになったのがMSPという概念だ。
油断すれば価格競争に巻き込まれかねない、そんな現状でも
他人に真似されにくいものがある。
それは他でもない――「自分自身」だ。

MSPとは?

マーティン・リンドストロームが提唱し、
木坂健宣が広めたUSPを進めた概念。
以下の頭文字を取った略語で、その意味は直訳すると「私の販売提案」となる。

  • Me:私の
  • Selling:販売
  • Proposition:提案

MSPの事例

社長が自ら矢面に立って広告塔も兼ねている企業は
意識しているしていないに関わらずMSPを活用していると言っていいだろう。

私が知りうる限りで白眉なのは、TaskChute Cloud開発者の
jMatsuzakiだ。彼がプロフィールに掲げている
「夢見るリアリスト」というのはMSPを上手く言語化できている。 jmatsuzaki.com

そしてMSPからは以下のようなメリットを享受できるだろう。

MSPのメリット

  1. 自分の理念や価値観、ライフスタイルに共鳴した人が寄って来るようになる
  2. 口伝てで紹介されやすくなる
  3. 自己発信の方向性がブレにくくなる

MSPの作り方

  1. Me:自分のアクセルを浮き彫りにする
  2. Selling:相手のアクセルを浮き彫りにする
  3. Proposition:自分達のアクセルに「響く」「刺さる」提案の手法を探求する

MSPを作る際に注意すべきは、
取り組んでいるときは他の段階を度外視して取り組む事。
Meの課題に取り組むのなら、
自分のアクセルを浮き彫りにする探求にひたすら没頭するのだ。

アクセルを浮き彫りにするには、
以下のような質問の答えを「三大欲求を満たす」以外で、
じっくりと考え抜くと良いだろう。

  • どんなに忙しくなってもやりたい事は?
  • どんなに暇になってもやりたくない事は?
  • 気がつくとついやってしまう事は?
  • 100億手にしても続けるだろう習慣は?
  • 100億借金を背負ったとしても止めない習慣は?

MSPを作る前に

Me?

私がUSPに出会い、MSPを紹介され、親交を深めていく内に
どうしても引っかかる事があると気がついた。
それは……

「MSPを『私の販売提案』と訳すのなら原語は、
Me`` Selling Proposition』ではなく
My`` Selling Proposition』であるべきでは?」
と高卒の私の英語レベルでは引っかかったのだ。

MeとMyの差異を調べてみるとどうやら……

  • Myというと「Selling Proposition」に重点が置かれ、
  • MeというとMe(私自身)にスポットライトが当たるようだ。

動名詞の意味上の主語「my ~ing(所有格)、 me~ing (目的格)」は同じ意味か違うか | ひとり英語研究所

要はMeの方が、
背負ってる責任と覚悟が大きいから凄みが出るという事だろう。
この凄みというのは、言葉にしようとしても言葉にならないもの。
すなわち「行間」にまで及ぶ。

軸が肝要

スポットライトを浴びたMe(私)がSP(販売提案)するためには、
自分が誰で何者なのかという人生の軸を明確に意識する習慣が必須。
その習慣を続ける試行錯誤がやがて他人を惹き付けるMSPとなるだろう。
現在私が感じているヒントを以下に列挙する。

MSPを他のものになぞらえるなら……

  • MSPとは、自分というアクセルに結わえ付けられた旗である。
    旗にどんなに美しい絵が描かれていたとしても、
    自分というアクセルが脆ければ
    世間の波風にさらわれてしまう事だろう。
  • MSPとは、自分というアクセルの先に付けて廻す車輪である。
    大切なのは車輪そのものではなく、それを廻してどこに向かうかだ。
  • MSPとは、自分というテーマパークに常在し、顧客を案内する
    マスコットキャラクターだ。
    彼の案内で顧客はさまざまなアトラクションを愉しめる。
  • MSPとは、市場という大海で生き残る為の方舟である。
    それは次世代を育み想いを託す。
    いつかUSPという大地になる事を夢見て……。

意識を研ぎ澄ませて、自分のアクセル
明確にすればするほど、強力で魅力的なMSPを提示できる事だろう。
ここまで読んでくれた貴方なら、既に気付いている事だろうが、

MSPは一朝一夕で完成するようなものではない。
それを作り、探し求める過程もひっくるめた私達自身の人生全てである。

まとめ USPとMSPの違い

  USP
(Unique Selling Proposition)
「独自の販売提案」
MSP
(Me Selling Proposition)
「私の販売提案」
提案するのは 商品・サービスの
機能性や利便性
→”何”を売るか
発信者の理念や価値観
ライフスタイル
→”誰”が売るか
価値 相対的で
比較するし、比較される
絶対的で比較するのは野暮
市場との関わり 既存の市場で
独自性を売りにして
競合他社との差別化を図る
自分がオンリーワン
である事を提示して
新規市場をつくる
基本的な視点の流れ 競合→自社→顧客 自分→顧客
弱過ぎると…… 他社に真似されてしまい、
Uniqueでなくなる
他人の心に引っかからないので、
そもそも相手にされない
上手く噛み合うと…… 市場でナンバーワンになれる 「貴方だからこそ買いたい」
と顧客に思ってもらえるようになる

貴方がUSPを作りたいと思うなら、まずはMSPを明確にする必要がある。
その為にはマインドマップを書き、自分のアクセルを浮き彫りにする事から始めよう! jp.xmind.net

最後に

冒頭に述べ、ここまで書いてきたが、現在ではUSPよりもMSPの方が大切だ。
MSPは市場という大海で荒波に呑まれないようにする為の方舟だ。
だからといって、MSPに偏り過ぎてしまうと、
独り善がりという暗礁に乗り上げてしまい、誰にも相手にされなくなってしまう。

始めは波風に翻弄されるだろうが、市場の潮流を読めるようになる事も大切だ。
貴方の方舟に乗船希望者が集えば集うほど、貴方も方舟も価値が上っていく。
掲げている価値観だけでなく、それよりも多くの価値を市場に
提供できるようになる。
そうして市場に提供した価値が一定量を超えれば
市場においてナンバーワンになる事も夢ではない。

貴方がMSPという方舟で辿り着いたナンバーワンという地位は、これまでのUSPのように
一時的にナンバーワンになれてもオンリーワンでなくなった先達とは違う。
貴方というオンリーワンが辿り着いたナンバーワンである。
他の誰にそれを真似できようか?

要約

市場でナンバーワンを目指すなら……

  • まずMSPを作ってオンリーワンを目指せ。
    これからの時代それが一番近道だ。
  • MSPを作ってオンリーワンである事を堪能したら、
    市場でナンバーワンを目指せ。
    その姿勢がオンリーワンを引き立て、好循環を生むだろう。
  • その為にもまずはMSPを作ろう!

参考文献

沈黙のWebライティング —Webマーケッター ボーンの激闘— | 松尾 茂起, 上野 高史 | 工学 | Kindleストア | Amazon

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